2016年05月29日

宮脇俊三『古代史紀行』

 鉄道紀行で有名な宮脇俊三*1 に御所について触れたものがあるか調べてみた。
 全国の鉄道を完乗されている方なので、鉄道紀行で記載されている可能性もあるが、確率の高いのは、歴史もの。『古代史紀行』(講談社、1990年11月)には、奈良県の記述が多い。
 「女帝と道鏡と藤原仲麻呂」という章で記述があった。「午後2時すこしまえ、バスは葛城山東麓の御所の駅前に到着した。御所は奈良盆地の南端にある古い町で、JR線と近鉄線が接している。ここで私は下車した。道鏡のためではない。御所駅の東1.5キロに吉祥草寺という寺があり、ここが役小角(役行者)の生地とされているからであった」「葛城山地には呪術めいた雰囲気がある。このあたりには築地塀をめぐらした大きな屋敷が多い。運転手によると、昔は売薬、いまはサンダルの生産で財をなした人たちの家だという。御所のサンダルは有名だが、そのまえは売薬だったのかと思う。売薬と聞いたとたんに行基や道鏡につながるものがあるような気がした」
 著者の鉄道紀行には乾いたユーモアがある。『古代史紀行』も表題は堅いが、ところどころユニークなフレーズがあってうれしくなる。「私は東大寺の諸堂のなかでは戒壇院が好きで、幾度も訪れている。ややツムジ曲りの興味なのだが、四天王に踏まれた邪気たちの姿態がかわいらしくユーモラスだからである。とくに、仰向けになって腹と額を踏みつけられた増長天の邪気は、なんとも魅力的だ」
 いとうせいこう、みうらじゅんが出演する関西テレビ制作「新TV見仏記」は、好きなテレビ番組なのだが、この番組の空気とも共通するものを感じる。
 かたぐるしい内容の本ではないのでお勧めである。だが、市内の図書館には常備されていない。購入申請を出してみよう。

*1 高校時代、第5回日本ノンフィクション賞を受賞した処女作『時刻表2万キロ』(河出書房新社 1978年7月10日)を夢中になって読んだ。全国の鉄道を完乗する人がいるなんてと驚き、次の『最長片道切符の旅』(新潮社 1979年10月)では、一筆書きルートの複雑さと手書きの文字で埋め尽くされた切符に仰天した。
posted by 林 秀一 at 16:16| 鉄道 | 更新情報をチェックする